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金融のプロが慣行農業に挑む、日本アグリマネジメントのビジネス [農業]

9月9日(木)

昨日、台風9号の影響で、ようやく東京に雨が降りました。うちの家の周囲に生えた草は、久々の水分に驚いたのか、なぜか萎れて倒れてしまいました。それにしても、今年は長い梅雨のあとの猛暑、そしていきなりの台風による水害と、天候が荒れ放題ですね。そこで心配なのは農業のこと。スーパーの野菜は軒並み価格が高騰しています。

そんな中で、今回は久しぶりに農業の話題で書いてみたいと思います。ご紹介するのは「農業を起業する」という本の中で、取り上げさせていただいた、日本アグリマネジメントという会社です。

じつをいうと、農業について書こうと思ったとき、僕の頭の中はまだ漠然とした状態でした。ところが、この会社を知ったことで、ビジネスと農業の矛盾と融合の可能性を見ることができ、書くべきテーマが具体化された、という経緯もありました。

日本アグリマネジメントの代表は松本泰幸さん。そもそもこの人は金融のプロフェッショナル。その松本さんが、「日本の産業を見渡してみて、農業にはもっとお金がまわってしかるべきだ」とかねがね思ったいたことが、この事業を立ち上げたきっかけだったと言います。とはいえ、金融の立場でかかわるだけでなく、自ら農業の世界に飛び込んでしまったところがすごい。

ただ、松本さんは農業に革新を起こそうと考えたわけではありません。慣行農業を「ビジネス」として取り組んでみようと考えたのです。ここがとても大事なところです。農業の手法はいわゆるふつうの農家の生産、流通と同じですが、違うのはそこに企業的な考え方と手法を適用したことだったのです。言ってみれば、農業を企業的なアプローチでやってみようと考えたのです。

事業計画を策定し、それにもとづいて生産体制と流通を整える。また、利益率、価格変動、種まきから出荷までの期間を計算して採算の取れる作物を選定していきました。一方では市場を分析して、どれくらいの規模で何を作ればどれくらいの売上、利益が見込めるかを予測していきました。

同時に、もっとも効率よい生産体制と手法も割り出していきました。トラクター1台がもっとも効率よく稼働する面積を割り出し、それにかかる作業時間やのべ人数を緻密に計算し、計画に組み込んで行きました。

すべてのことを過去のデータやマーケット動向をから計算し、それをもとに事業計画を作成。それにしたがって土地を購入し、作付けを行うという、いわゆる製造メーカーのノウハウで農業にアタックしていったのです。

その中でも僕が一番、感心したのは、自社で作る作物を松本さんが選定した理由でした。さすがに金融のプロ、なんと野菜を金融資産に見立てて「ポートフォリオ」として考えたのでした。ポートフォリオとは金融の専門用語で、資産の分散投資のこと。今ある資産をもっとも少ないリスクで増やしていくための管理手法で、松本さんは作物の選定と組み合わせのバランスを考えたんだそうです。

たとえば、トマトは生産量と値段の振れ幅が少なく、安定した作物だから「定期預金」。ピーマンやキュウリは収量の振れ幅は少ないけれど、価格が乱高下するので「株式投資」というふうに。そうやって、もっともリスクの少ない資産管理の組み合わせで考えたのでした。取材中にこの話を聞いて、僕は倒れそうになりました(笑) まいったというか…。金融のプロがやっているからこそ、大笑いもするし、大いに感心してしまったのです。

さて、実際に農場をスタートしてみてどうだったか。「初年度は何もかも、計算通りにはいかなかった」と笑います。まず天候の読みが外れてしまったことが大きかったようです。それに加えて、作業を委託している地元農家の人たちも読めなかったと。企業で働くサラリーマンと違い、人によって経験やスキルの差が大きく、またその日の都合によって勝手に休んでしまうといった、計算外の事態も次々と起こったそうです。そんな事態に遭遇しても、3年、5年のスパンで事業を考えて、問題に対処していったという松本さん。

数々の問題にぶち当たりながらも、最大の事業目標であった「3年後に黒字」を見事に果たしました。これまで、農業は自然を相手にするものだから、企業的に管理、運営するのは不可能だと言われ続けてきましたが、それまでの常識を覆す糸口を見せつけたのでした。もちろん大きな利益を出していくにはまだまだ課題がありますが、これまでの定説を覆した功績は、農業のあり方を考える上で非常に大きな出来事だったと私は思っています。

日本アグリビジネスは、日本が培ってきた慣行農業の真価を問う挑戦だと私は感じました。そして、なぜ、黒字化に成功したか、その一端を本で書かせてもらいました。

今年の夏は予想外の猛暑だったことで、いろいろと計画の見直しも必要だったのではないかと少し心配しています。折を見て、松本社長に一度、お話をうかがってみたいと思っています。

それにしても、取材中にいただいた、オリジナルのサツマイモ「べにはるか」のとろける甘さと、同種のイモからできたという焼酎の味は忘れらないなぁ。

●日本アグリマネジメント http://www.japanagri.com/

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